静磁場が1.5Tから3Tになることで与える影響についてです。
問題
3.0T について、正しい文章を解答して下さい。
a. 物質のT1値は1.5Tより約1.4倍長くなる。
b. 磁化率効果は1.5Tより約1.4倍大きくなる。
c. 比吸収率(SAR)は、1.5Tより約4倍大きくなる。
d. RFの生体への浸透力は1.5Tより大きくなる。
e. 脂肪の共鳴周波数は水の共鳴周波数より約447Hz低い。
解答
c,e
解説
T1値について
T1は縦緩和に、T2は横緩和に関係しています。
そして、
T1とは縦磁化が63.2%まで回復する時間、
T2とは横磁化が36.8%まで減衰する時間となります。
磁場にさらされた1Hの磁気モーメントはエネルギー準位の違う2郡に分かれます。
仮に上方向を向いているα郡と下方向を向いているβ郡とします。そしてα郡の方が常にちょっとだけ多くなります。
割合は決まっていて、
1.5Tではβが10万個あったら、αは10万1個。
3Tではβが10万個あったら、αは10万2個です。
これは編曲率と呼ばれ、静磁場B0に比例します。
(Nα-Nβ)/(Nα+Nβ)=(γħB0)/(2kT)
編曲率は1.5Tで0.5×10-5、3Tで1×10-5となります。
このちょっとだけ多いαが縦磁化となります。
ここで、磁場にさらされた状態でRFを照射すると、αは励起されβに移動して両郡は同じ数となります(飽和)。
そうするとちょっとだけ多かったαは同数となってしまい無くなるので、縦磁化は0です。
RFを受けて多くなったβは(αと同数)エネルギー準位が高いのですが、周りの分子にエネルギーを渡して次第にβからαへと戻っていき最初の”αがちょっとだけ多い状態”に戻ります。この過程が縦緩和となります。
ここで話を戻して、縦磁化が63.2%まで回復する時間がT1です。
例えば、T1が200msだと、RFを照射後、αとβが同数となってから200ms後にはαが63.2%回復していることとなります。
本題に戻りますが、磁場が高くなると、先ほどエネルギーをもらってくれた分子の数が減ってしまいます。
(詳細には緩和に寄与する同じ回転周波数の分子の数)
そうすると、RFを照射されたあとにエネルギーを与える分子がより少なくなるので緩和が遅くなります。
今まで、63.2%まで200msで回復していたものが300msもかかってしまったりするのです。
要するに高磁場になる程T1は延長してしまいます。
ここで、T1の延長と磁場の強さは比例関係にはなく組織によってもまちまちです。唯一”純水”のみ磁場には依存しません。
磁化率効果
よく磁性体はMRIに持ち込めない、非磁性体であれば大丈夫。
のようなことを聞いたことがあるかもしれません。
広義の意味では合っているかもしれませんが、
全ての物質は磁性体であり、水や空気、人体も何らかの磁性を持っています。
主に3つで、反磁性体、常磁性体、強磁性体と分けられ、
中でもMRIにくっついてしまうから危ないよと言われているのが強磁性体です。
また画像にも影響を与え、歪んでしまったり無信号になったり、そして造影剤も磁性を利用したものです。
MRIには位置情報を得るための印のような役目として傾斜磁場を印加します。そうすることにより傾斜磁場分だけ周波数がズレるのですがそのズレを利用して位置を知ることが出来ます。
しかし、強い磁性が近くにあるとそれによっても周波数ズレを起こしてしまい、MRIは忠実に画像化するので位置がズレた要するに歪んだMRI画像となります。
その周波数ズレは
Δv=2γχB0
磁化率χ、静磁場B0に比例します。γは磁気回転比。
SAR
単位質量あたり、単位時間に吸収するエネルギーです。J/s/kg=W/kg
RFの照射により被写体に蓄積される熱量の指標で使われます。
MRIに従事されている方では経験あると思われますが、検査終了後、患者さんをMRIから出すと汗をかいて「暑かった」と言われることがあります。これもRFにより蓄熱されたための可能性があります。
ここでSARを算出する式ですが
SAR∝(σD(B0θR)2)/ρ
Dはデューティサイクルといい、撮影時間に対するRF照射時間を表し、要するにTR中にどれだけの時間FR照射しているかで、D=τ/TRとなります。
σ:電気伝導度、θ:フリップ角、R:半径、ρ:密度
静磁場B0が1.5Tから3Tになると(2倍)、2乗がきいているため4倍のSARとなります。
RF分布
RFは電磁波なので空気中では光速cで移動します。
c=νλなので、(ν周波数、λ波長)
λ=c/ν
RFの波長は、(1.5T)
λ=3×108/1.5×42.58=4.7m
3Tでは
λ=3×108/3×42.58=2.35m
これは空気中の波長なので、人体中での波長は、比誘電率の平方根で割れば算出でき
人体の非誘電率を70とし
4.7/√70=0.56 2.35/√70=0.28
1.5Tでの身体の中の波長は56cm、3Tでは28cmとなります。
ここで、電磁波は自身の波長と同程度かそれ以上の大きさのものには反射してしまう性質があります。
人体に照射したRFが人体表面で反射し、一部透過しても人体から出るところでまた反射してそれがまた体内を通過するのですが、そうすると最初のRFと反射されたRFが混ざり、定常波が形成されます。
RFの強い部分と弱い部分ができ、RFの空間分布が不均一となります。
これを誘電効果あるいは定常波効果といいます。
RFは波長が短いほど透過しづらく、そのために3Tの方がRFの人体への浸透は悪くなります。
ケミカルシフト
水と脂肪の共鳴周波数差は3.5ppmです。(脂肪の方が3.5ppm遅い周波数です。)
これは磁場に影響されずに一定です。
しかしHz単位で扱うと磁場に依存します。
ω0=γB0より
ω0=42.58×3=127.74
これに3.5ppmをかけます。
447.09Hzとなります。
まとめ
静磁場について、特に3Tになったらどうなるかという問題でした。
3Tを扱っていない施設でも必要な知識であり、SARやT1値、ケミカルシフトは頻出ですので特に注意しておきたい問題だと思います。
参考書籍・文献
MRI完全解説第2版 P398
など
解答に関して、今まで培った知識や書籍・文献を参考に導出したもので、私の認識不足により間違っている可能性もございます。ご理解いただいた上でご参考ください。
MRI認定試験の合格を目指している方のお手伝いができればと思っています。
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