SARについての出題は過去にたくさんあり、基本的な式(SAR∝(σD(B0θR)2)/ρ)を覚えておくことが大事となります。
中でも今回はシーケンスごとのSARをみていきます。
過去問ではこのシーケンスについてのSARは第17回で初めて出題されております。
第18回からも出題されるかはわかりませんが押さえておきましょう。
RFパルス形状について
まずRFパルスの形状について説明していきます。
フリップ角はθ=γB1tで与えられます。
強度を2倍するとフリップ角も2倍、印加時間を2倍にするとフリップ角も2倍となります。
ここでRFパルスのエネルギーをみていきます。
RFパルスのエネルギーは強度に二乗比例し、幅に比例します。
またこのことから、強度を2倍して印加時間を1/2するとフリップ角は変わりませんが、RFパルスのエネルギーは2倍となります。
このように同じフリップ角でもRFパルスの形状によりRFパルスのエネルギーが変わります。
パルスシーケンスとSAR
次はパルスシーケンスについて考えます。
SARはこの式SAR∝(σD(B0θR)2)/ρの様に、デューティサイクルDと比例関係にあります。
Dは1TRあたりに含まれるRFパルスが与えるエネルギーの総和となります(D=ΣERF/TR)。
そのためTRが短いシーケンス、TRあたりにRFパルスを多用するシーケンスではSARが高くなります。
RFパルスのSARはコイルや体重によって変化しますが、仮に90°パルスのエネルギーを0.01J/kgとして例を述べていきます。
① SE
TR=400msのスピンエコーシーケンスです。
180°パルスは90°パルスの2倍のフリップアングルです。フリップアングルを2倍にするには強度または幅(時間)を2倍としなければなりませんが、今回は90°パルスと同じ波形を使っているとして強度が2倍としましょう。
90°パルスは0.01J/kgと仮定しているので180°パルスのエネルギーは90°パルスの4倍となり0.01×4J/kgとなります。
TR(400ms)あたりに90°パルス1個、180°パルス1個あるのでSARは、
0.01×(0.01×4)/0.4=0.125J/s/kg=0.125W/kg となります。
② FSE (TSE)
TR=400msのファーストスピンエコー シーケンスです。
TR中に180°パルスを多用してエコーを取得し、SEよりも早く画像が取得できます。
SARの考え方はSEと一緒です。
180°パルスのエネルギーは90°パルスの4倍であり、180°パルスを多用していることからSARが高くなることがうかがえます。
TR(400ms)あたりに90°パルス1個、180°パルス5個なので、
SARは0.525W/kgとなります。
③ GRE
フリップ角45°、TR=20msのグラジエントエコーシーケンスです。
再収束パルスは使用せず、小さなフリップアングルでTRを短くした撮影方法です。
フリップアングルは90°パルスの半分の強度なので1/4となります。
フリップアングルのエネルギーは小さいですがTRも短いためSARは極端に下がるわけではありません。
TR(20ms)あたりに30°パルス1個なので、
SARは0.125W/kgとなります。
今回はSEと同じSARになりましたが、設定するTRやフリップアングルによって変動します。
④ SSFP
TRが非常に短いSSFPシーケンスです。
メーカーによって名称が色々ありますが、TrueFISP、FIESTAなどとも呼ばれます。
SSFPはバンディングアーチファクトが出現しやすく、防ぐためにTRを短くする必要があり、エコースペースも狭くしたいためRFパルスも通常より短いものが使われます。
仮に90°パルスを使用するとして、幅は通常の半分とします。
幅だけを半分にするとフリップ角も半分となってしまうため強度を2倍にしてフリップ角を保ちます。そうすると幅半分の90°パルスとなりますがエネルギーは2倍となります。
GREよりも短いTRで、尚且つフリップアングルも大きいためSARが高くなりそうですね。
TR(5ms)あたりに幅の狭い90°パルス1個なので、
SARは4W/kgとなります。
まとめ
今回の例題をまとめます。
SEにおいてはTRの長いT2WIよりもTRの短いT1WIの方がSARが高くなりやすいですが、FSEではETLの分だけ180°パルスを繰り返すため基本的にT1WIではETLは小さく、T2WIではETLが大きいため一概には言えません。
GREはTRは短いもののフリップアングルも小さいためSARが大きくなりませんが、SSFPではTRが短い上にRFパルスの強度も強いためSARは高くなります。
今回はあくまで例題ですので参考程度としてください。
実際には患者ごとに同じ強度でRFパルスを照射しても同じフリップ角とはならないため、検査時の入力体重や送信電力と帰ってきた電力をもとに調整して最適なRFパルスを照射しています。今回は単純なシーケンスを机上で考えただけで実際にはもっと複雑です。
しかし、SARが上がりやすいシーケンスはどんなものか知っていると、体の大きな患者、デバイスの入った患者、意思疎通のできない患者の対応などで、なるべくSARを上げない工夫ができるかもしれません。
また、1.5Tから3Tへ静磁場強度が上がると、全く同じシーケンスであれば単純に4倍のSARとなるためさらに気をつけなければならないことも覚えておきましょう。
過去問からの出題
第17回-21
比吸収率(specific absorption rate:SAR)が最も高いシーケンスを選べ。ただし、TR は同じ時間とする。
1. Spin echo (ETL:1)
2. Fast spin echo (ETL:32)
3. Stimulated echo (ETL:1)
4. Inversion recovery spin echo (ETL:1)
5. Spin echo typed echo planer imaging (ETL:128)
コメント
コメント一覧 (2件)
いつも閲覧していて参考にしています、ありがとうございます。
コメントというか質問になるのですが、教科書的な式「SAR∝(σD(B0θR)2)/ρ」ではθの2乗に比例していますが、このページの最初の説明で「θ=γB1t」で、「SARは強度(B1)に二乗比例し、幅(t?)に比例」という説明がありました(これは認定機構の動画で講師の先生も言ってました)。
教科書的な式では「θ」の2乗に比例ということで「t(幅?)」と「θ」は比例関係なので、「t」もSARに二乗で比例すると思い、混乱しているのですがいかがでしょうか?
それとこれは認定機構の安全管理講習のテストでのことですが、「TEのみを延長した場合デューティーサイクルを下げることとなり、SARの低減につながる」という〇×問題で、この問題は正解でした。
自分の知る限りはSARに関して「TEの延長がSAR低減につながる」と説明している書籍やサイトは無かったのでこちらも混乱しています。
私見でも構いませんので、何かアドバイスいただけたらありがたいです。
ご質問ありがとうございます。
野中様のおっしゃる通り記事を見返すとSARは強度(B1)に二乗比例し、幅(t)に比例すると説明しておりました。
私の書き方が悪かったというか間違っていたのですが、正しくはSARではなく「RFパルスのエネルギーは強度(B1)に二乗比例し、幅(t)に比例する」となります。
このRFパルスのエネルギーはデューティサイクルのΣERF(エネルギーの総和)に反映され、強いエネルギーをもつRFパルスほどデューティサイクルが高くなると考えられます。
今回はシーケンスのSARについてフォーカスしておりまして、1シーケンス中に様々なパルス形状のRFを用いたSAR(90°パルスや180°パルスを組み合わせたSAR)は複雑であり、教科書的なSARの計算式と切り分けて考えることが必要なのかと思います。
「TEのみを延長した場合デューティーサイクルを下げることとなり、SARの低減につながる」についてですが、
今回の記事をもとに考えますと、例えばSEの場合、TEが短いと180°パルスの形状をB1を強くすることで形成することとなりRFパルスのエネルギーが強くなります。
TEを延長した時はB1よりもtを大きくすることで180°パルスを形成できる可能性があるため、RFパルスのエネルギーをなるべく抑えてパルス形成ができるのでデューティサイクルが下げられる。ということでしょうか。正直わかりませんが今私が考えられるのはこんなところでした。
もししっかり裏付けがある解答が見つかりましたら改めてご連絡しますね。
ご満足いただける解答ができたか自信はありませんが、何かございましたらコメントやメールをいただければと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
記事はSARからRFパルスのエネルギーと書き換えさせていただきました。