脳の所見に関しての問題です。
問題
次の記述について、正しい文章を解答して下さい。
a.脳出血直後の所見は MRI では描出できない。
b.出血直後の血腫はメトヘモグロビンにより、T1 強調画像で高信号となる。
c.拡散強調画像では脳膿瘍は低信号として描出できる。
d.拡散が低下している部位は ADC map で高信号として描出できる。
e.脳膿瘍は ADC map で低信号として描出できる。
解答
e
解説
脳出血
脳出血は高血圧性と非高血圧性に大別されます。
8割以上は高血圧性と言われています。
好発部位
被殻(40%)、視床(30%)、脳幹、小脳、皮質下
MRIは脳梗塞だけでなく脳出血にも強く、病期の判断にも使われます。
出血を探すためにT2*WIが使われ、出血した時期の推定にはT1WIやT2WIが用いられます。
血液1ml中には赤血球が約5×109個あり、赤血球には2.8×108個のヘモグロビンが存在します。
ヘモグロビンは鉄を含むヘムとたんぱく質のグロビンからできていて酸素を運搬する役目をします。
このヘモグロビンの状態によりMRIの画像へ影響を及ぼすこととなります。
超急性期(出血直後〜数時間)
オキシヘモグロビン
血管内でのヘモグロビンはオキシヘモグロビンという状態となっています。これは反磁性のため周囲の磁化率に影響を及ぼしません。
しかし出血すると水分としての信号強度を反映して、T1WIで軽度低信号、T2WIで軽度高信号となります。
実際に出血直後(もしかしたら出血数分前)の撮像をした経験がありますが、T2*WIでも磁化率の影響を捕らえられませんでした。
問では”脳出血直後の所見は MRI では描出できない”とありますが、血腫の水成分を反映することで観察できますので×です。
急性期(数時間〜数日)
デオキシヘモグロビン
オキシヘモグロビンが脱酸素状態となり不対電子が4つの常磁性であるデオキシヘモグロビンとなります。
常磁性のため、T2WIで強い低信号となり、T1WIではまだ軽度低信号です。
磁化率効果によりT2*WIではとても分かりやすい低信号で描出されますが、DWIでもその磁化率効果により歪みと低信号と高信号が混じったような状態で観察されます。
救急で脳内精査をするときまず初めにDWIを撮影するのでどのような見え方をするのか覚えておくと役立つと思います。
亜急性期早期(数日〜1週)
赤血球内メトヘモグロビン
血腫の辺縁部分からデオキシヘモグロビンは孤立電子が5つのメトヘモグロビンとなります。メトヘモグロビンとなると2価のFeイオンは酸化され3価となり酸素の運搬能力は失われます。また陽性造影剤と同じような働きがありT1短縮作用とT2短縮作用を持ちますので、周辺から徐々にT1WIで高信号となります。T2WIでは低信号です。
亜急性期後期(1週〜4週)
赤血球外メトヘモグロビン(遊離メトヘモグロビン(フリーメトヘモグロビン))
赤血球の膜が破れ溶血し、メトヘモグロビンが血球外へ漏れ出てきます。
液状化しているためにT2WIでは液体成分を反映して高信号、T1WIではメトヘモグロビンにより高信号となります。
慢性期(1ヶ月以上)
ヘモジデリン(最終形態)
マクロファージがメトヘモグロビンを貪食しヘモジデリンとして血腫辺縁に沈着します。
ヘモジデリンはT2短縮効果があり辺縁に沈着するため、T2WIでは血腫辺縁に輪のような形で低信号帯が認められます。これをヘモジデリンリングと言います。また周囲は浮腫により高信号、内部は液化により高信号となります。
T1WIでもヘモジデリンは低信号、そして内部はメトヘモグロビンがあれば高信号となりますがやがてメトヘモグロビンは消失しますので内部も低信号となります。
はじめは覚えるのが大変だと思うのでよくあるまとめ方です。
「血腫 覚え方」とかで調べると結構出てくると思います。
自分なりにまとめてもいいかもしれません。だいぶ面倒ですけどね。
脳膿瘍
感染により発生します。経路は血行のほか、中耳炎や副鼻腔炎、外傷性もあります。
約1/4が感染源の特定が出来ないそうです。
症状は頭痛、発熱、痙攣などがあります。炎症性疾患ではありますが明らかな発熱や炎症反応はないことがあります。
病理組織学的な継時的変化
早期脳炎期→後期脳炎期→早期皮膜形成期→後期皮膜形成期
通常、脳膿瘍と呼ばれるのは早期皮膜形成期からです。
内部はT1WIで低信号、T2WIで高信号、DWIで高信号、ADCで低信号←大事です!
皮膜は出血成分やマクロファージによるフリーラジカル、線維化を反映しT1WIで軽度高信号、T2WIで低信号がよくあります。
また、皮膜は造影剤で強く増強されるので造影T1WIでリング状増強効果が見られます。これは皮膜が形成されてからです。
周囲に浮腫があるとT2WIやFLAIRで高信号となります。
リング状増強効果を認める病変として膠芽腫や転移性腫瘍、放射線壊死がありますがDWIの高信号が鑑別に有用です。
まとめ
脳の所見についての問題でした。覚えておくと臨床でも役に立ちますね。ただの暗記ではなく常磁性だから、液体成分だからなどと理由付けして覚えられたら良いです!
参考書籍・文献
MRI完全解説第2版 P436
頭部画像診断の勘ドコロ P203
よくわかる脳MRI 第3版 P280,652
解答に関して、今まで培った知識や書籍・文献を参考に導出したもので、私の認識不足により間違っている可能性もございます。ご理解いただいた上でご参考ください。
MRI認定試験の合格を目指している方のお手伝いができればと思っています。
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