CESTは認定試験の第14回から出題され始めており、徐々に問題数も増えてくるのかと考えています。
また、前回MT効果について記事を書きましたので関連するCESTも記事にしようかと思いました。
MT効果のおさらい
CESTはMT効果を応用した技術となります。
MT効果では高分子や結合水を飽和させることで間接的に自由水の一部を飽和させるものでした。
磁化移動と化学交換
ややこしくなるかと考え、前の記事(MT効果の記事)では特に説明はしませんでしたが、
MT効果には『磁化移動』と『化学交換』という現象を利用しています。
磁化移動とは1H原子は移動せずに磁性だけが移動するもの。
化学交換とは実際に1H原子が移動するもの。
結合水は高分子(タンパク質)と結合していますが、高分子の1Hと結合水の1Hの間では磁化移動が、結合水の1Hと自由水の1Hの間では化学交換が主に担っています。
これらの現象によりMT効果が現れます。
CEST
概要
高分子1H(A)にRF照射し飽和させます。その飽和は磁化移動により結合水1H(B)へ移動します。さらに飽和は化学交換により自由水1H(C)へ移動し自由水の信号強度は低下します。
MT効果ではこの(A)の部分は非特異的であり、実質臓器の信号さえ低下してくれればMT効果の任務は果たせていました。
CESTでは(A)の部分を特異的なものとし、自由水の信号がどれだけ低下したかを観察し(A)を間接的に検出します。これをマッピングしたものをCESTイメージングと呼びます。
内因性CEST・外因性CEST
(A)に当たるものはCEST agentといいます。
CESTは、もとから生体内にあるCEST agentを対象とする『内因性CEST』と、外部から生体へ投与する『外因性CEST』に分けられます。以下の表はMRI応用自在を参考にしました。
内因性CEST
APTイメージングについて説明します。
生体内のタンパクには個体様の性質をもちT2の短い結合性タンパクと、液体状の性質をもちT2の長い可動性タンパク/ペプチドの2つがあります。
APTイメージングでは可動性タンパク/ペプチドに含まれるアミドプロトン(-NH)の濃度・交換速度に基づいたコントラストを得ます。
アミドプロトンの共鳴周波数は自由水から+3.5ppmとされており、この周波数を選択的に飽和させることでCEST効果が得られます。
APTイメージングでは可動性タンパク/ペプチドを反映するため脳腫瘍の悪性度評価などに有用性があります。低悪性度グリオーマではAPTは軽度上昇に留まりますが、高悪性度ではAPTは大きく上昇します。
また、pHを反映させて脳梗塞にも応用できます。急性期脳虚血では嫌気性代謝によって乳酸の上昇が生じ局所pHが低下します。pHが低下するとプロトン交換速度が低下するのでAPT信号も低下します。
外因性CEST
イオパミドール(造影剤)について説明します。
イオパミドールには2種類のアミドプロトン(-NH)を有しておりピークは4.2ppmと5.5ppmです。プロトンの交換速度はpHに大きく依存します。そのためpHマップを得ることができます。
しかしCEST効果が造影剤の高集積によるものなのか、高い交換速度によるものなのかを区別できないデメリットがあります。また造影濃度の低い部分ではSNRが低いため十分なCEST効果を得られないことがあります。
CESTの原理
自由水とは異なる周波数にあるCEST agent(正しくはその交換可能なプロトン)を飽和パルスにより選択的に飽和させます。
飽和されたプロトンは一定速度で自由水と交換され、自由水の信号を低下させます。この信号低下がCEST効果となります。
飽和パルスが印加されていない時の信号をS0、飽和パルスが印加された時の信号をSSATとし、S0とSSATの比を各周波数でプロットしたものをZ-Spectrumと呼びます。
このピークにはMT効果や自由水への直接的な飽和の影響があるため、MTR asymmetryを用います。0ppmを中心として正負対象にZ-Spectrumの差を算出することでこれら影響を減少させることができます。
CESTにはこの値が用いられています。
CEST効果を得るためには飽和パルスが必要となりますが、プリパルス(本シーケンス前に照射)として用いられています。
この飽和パルスの照射時間は長く、500ms〜数秒となります。
一般的には飽和パルスが長いほど、その強度が強いほど、CEST効果は大きくなりますが、生体内では磁化率効果の増大によりCEST効果が下がる可能性があります。
CESTは交換速度が早いほどCEST効果が大きくなります。
CEST agentの部分で度々pHが出ていましたが、交換速度はpHと依存性があります。また温度にも依存し、pHや温度が高いほど交換速度が早くなりCEST効果も増大します。
このことから温度が一定であれば組織のpHを知ることができます。
過去問からの出題
第14回-22
正しい記述はどれか。2つ選べ。
- Compressed sensing(CS) MRI は画像容量を圧縮することができる。
- Quantitative susceptibility mapping(QSM)は磁化率を定量することができる。
- Synthetic MRI はデータベースを元に T1 値や T2 値などを推定するこができる。
- MR fingerprinting は古典的なカーブフィッティングにて T1 値や T2 値などを推定することができる。
- Chemical exchange saturation transfer(CEST) MRI は水素イオン指数の変化を捉えることができる。
第15回-13
正しい記述はどれか。3つ選べ。
- SWI は位相画像にローパスフィルターを施す。
- Synthetic MRI は脂肪抑制画像を取得することができる。
- フーリエ変換は deep learning によって置換することができる。
- MR fingerprinting では撮像パラメータを撮像毎にランダムに設定する。
- CEST (chemical exchange saturation transfer) MRI は MT(magnetization transfer)効果を利用している。
第15回-32
CEST (chemical exchange saturation transfer)イメージングに関する正しい記述はどれか。3つ選べ。
- B0 の不均一は画像に大きく影響する。
- プレパルスとして短時間の飽和パルスを用いる。
- CEST 効果を表す指標として MTRasym 値がある。
- 健常脳の MTR(magnetization transfer ratio)は白質より灰白質が高い。
- APT イメージングは可動性蛋白やペプチドに含まれるアミドプロトンを検出している。
第17回-8
温度と MRI について正しいものを選べ.
1. 水の T2 値は温度の上昇に伴い延長する傾向にある。
2. 生体内のすべての組織は体温の上昇に伴い T1 値が延長する。
3. Chemical exchange saturation transfer(CEST)MRI に温度の影響はない。
4. Ice-water ファントム(0 °C)を用いると室温(25 °C)の水より ADC が高くなる。
5. MR spectroscopy による proton density fat fraction 測定では温度の影響はない。
第17回-38
正しいものを選べ。DWIBS:diffusion weighted whole body imaging with background body signal suppression、QSM:quantitative susceptibilitymapping、SWI:susceptibilityweightedimaging、CEST:chemicalexchangesaturationtransfer
1. DWIBS は全身の拡散強調背景抑制法である。
2. QSM は脂肪有率を定量的に算出した画像である。
3. SWI は磁化率強調像を定量的に得る撮像法である。
4. Computed DWI は 2 つ以上の b 値を利用して任意の ADC 値を求める手法である。
5. CEST イメージングは脂肪と水のプロトン間での交換が起こる現象を示した画像である。
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