【MRIの原理みたいなのその④】緩和のメカニズム

目次

縦緩和のメカニズム

縦緩和はRFパルスにより与えられたエネルギーを放出しながらβ群からα群へと戻っていく過程でした。

このエネルギーですが適当に放出するわけではなく、付近の分子へと与えることとなります。
そして分子の運動エネルギーとなります。

ここでの分子は格子とも呼び、磁気モーメントはスピンとも呼ばれるため、縦緩和はスピン格子緩和とも呼ばれます。

そして磁気モーメントの周波数分子の運動周波数が近いほどよりエネルギーの受け渡しが生じます。要するに緩和が進みやすくなります。

これをグラフで表したものが以下となります。

相関時間とは分子の運動周波数νのほぼ逆数となります。(ν≒1/τ)
グラフの左ほど分子の動きが速く自由水などとなります。右に行くにつれて動きが遅くなり粘稠な液体となって、10-5ほどでは氷となります。

周波数65MHzのとき逆数は1.5×10-8となりますが、グラフからもだいたい10-9〜10-8付近でT1が短いことがわかります。要するに磁気モーメントの周波数と分子の運動周波数が近いためエネルギーの受け渡しが生じやすくT1が短くなっているのです。

今までを要約すると、、

となります。

もっとわかりやすく説明できればいいのですが、縦緩和についてはこんな感じとなっています。

横緩和のメカニズム

横緩和は揃っていた磁気モーメントの位相がばらけて消失する過程のことでした。

そして位相がばらけると言えば”磁化率アーチファクト”です。

磁性体周囲に不均一な磁場勾配が生じ、磁気モーメントの周波数に差が生まれるため、早く位相が分散することで低信号となるものです(後に出ますがT2*緩和)。

横緩和も似たようなことが起きています。

水の分子は2個の水素と1個の酸素からできています。酸素には磁気モーメントはなく、水素だけ磁気モーメントを持ちます。

2個ある水素原子核はそれぞれ磁気モーメントを有するため、互いに磁場を与えます。
それぞれAとBとして磁気モーメントによる磁場を表すと、図ではAはBに静磁場B0とは反対の下向きの磁場を与え、同じくBもAに下向きの磁場を与えています。各水素原子が感じる磁場は本来の静磁場B0よりも小さな磁場になっています。

では次に、水分子が回転することで位置関係が変わったとします。

今度は静磁場B0と同じ上向きの磁場を与え合っていることがわかります。

これらAとBはまたの名を双極子と言うのですが、このように双極子同士が磁場を与え合うことを双極子双極子相互作用(dipole-dipole interaction:DDI)と言います。

この相互作用は磁気モーメントの2乗に比例し、距離の6乗に反比例します。

このDDIにより、水分子の位置関係が変わるたびにお互いの受ける磁場は変動します。

相互作用のない状態の角周波数はω=γB0ですが、このB0の部分が位置関係の変化により変わるためそれぞれの角周波数ωも変動します。するとみんな一緒に回って揃っていた位相がだんだんずれていきやがては位相が分散してしまうことがわかります。

このように横緩和はスピン同士が影響を与えあうため、スピンスピン緩和とも呼ばれています。

ではどのような時に横緩和が早くなるでしょうか。

それは水分子の回転速度に依存します。

水分子の回転が遅いほど影響を与えている時間が長くなり、水分子の回転が速いほど影響を与える時間は短くなります。要するに影響を長く与える水分子の回転速度が遅いものは横緩和が早く進みます。

グラフで示すと以下となります。

縦緩和でも触れましたが、相関時間とは分子の運動周波数νのほぼ逆数となります。(ν≒1/τ)

横緩和ではグラフ右側の遅いものほど相関時間が長くなりT2が短いですね。そして縦緩和の時とは異なりほぼ右肩下がりとなっています。

これは実際のT2強調画像からでも感じられることですが、水っぽい成分(CSF、胆汁など、T2長い)は高信号となり、粘稠度が増した液体(濃縮胆汁、T2やや短い)では信号がやや下がり、筋(T2短い)などでは低信号となります。

またT1強調画像では、水っぽい成分(CSF、胆汁など、T1長い)は低信号となり、粘稠度が増した液体(濃縮胆汁、T1短い)では高信号、筋(T1長い)などでは低信号となります。

それぞれのT1値、T2値や撮像条件にもよるので一概にはまとめられませんが、おおよそこのような感じと思っていただければと例を出しました。

T2*

T1とT2の他にもT2*というものがあります。

これは横緩和に関係するためT2に近いのですが、T2は先ほど説明したDDIによるもの。T2*はこれに加え磁化率アーチファクトなどの外部要因によるものとなります。

そのためT2よりも位相分散は早く、横緩和はより早くなります。

各緩和の関係性

縦緩和と横緩和に触れてきましたが、それぞれは独立したメカニズムで起こる過程となります。

縦緩和は磁気モーメントの周波数と近い運動周波数を持つ分子へエネルギーを与えることで起こる緩和。
横緩和はスピン同士が磁場を変動させることで位相が分散していく緩和。

それぞれの緩和は同時に始まりますが終わる時間は別々となります。

縦緩和(T1緩和)に寄与するのは運動周波数の近い分子のみ。それに比べ横緩和(T2緩和)は全てが寄与するため縦緩和より早く進み先に終わります。例外として純水の場合は同時に終わります(T1=T2)。

またT2*はT2に加え外部要因も寄与するためさらに緩和が早く、それぞれの関係性は、、、(第15回-8)

となります。

臨床で直接役立つものではありませんが、認定試験に出題される部分ですので念頭に入れておくべきかと思います。

BPP理論

教科書的な言い方では「DDIを定量的に扱ったもの」です。

緩和速度を、相関時間・角周波数・緩和時間・磁気モーメント・距離を用いて計算式として表したものです。

BPPとはBloembergenさん、Purcellさん、Poundさんという3名の名前からとったものです。

認定試験にも一度でていますが(第7回-1)、計算式は覚えるほどではないかと考えています。ちょっとごちゃついていてこれを覚えるならもっと別な式を覚えた方が試験勉強のコスパは良いのかと。もし式の問題出ちゃったらごめんなさい。



まとめ

縦緩和のメカニズム
①磁気モーメントの周波数と近い運動周波数を持つ分子へエネルギーを与えることで起こる
②スピン格子緩和

横緩和のメカニズム
①横緩和はスピン同士が磁場を変動させることで位相が分散して起こる
②スピンスピン緩和

T2*緩和
①T2緩和に加え外部要因による位相分散
②T1 ≧ T2 ≧ T2*

 

ここまで原理について4回やって緩和まで記事を作りましたが、詳しく知りたい方は『MRI完全解説』を読んでいただけると理解が深まります。

これを参考にしましたので僕の記事はまだまだ薄い内容です。それでも読んでいただきありがとうございます。

過去問

第5回-6
磁気共鳴について、正しい文章を解答して下さい。

a. 1.5T の MRI 装置において、90°パルスの印加時間が 15ms であった場合、同じ出力の電磁波を用いて 180°パルスを印加するのに必要な時間は 30ms である。磁気モーメントは静磁場強度に比例するため、3.0T では 90ms の印加時間が必要である。
b. 横緩和時間は共鳴周波数幅に依存し、周波数幅は広いほど横緩和時間は延長する。
c. 縦緩和時間は静磁場強度と組織の相関時間に比例する
d. 常磁性物質が持つ不対電子の磁気モーメントはプロトンの磁気モーメントの 658 倍である。
e. 緩和効果は不対電子とプロトンの距離の 6 乗に比例する。

第7回-1
次の記述について正しい文章を選択して下さい。(正解3つ) 

1. 緩和現象は BPP 理論が基礎となっている。
2. T1 値は静磁場強度に比例して延長する。
3. T2 値は分子の運動周波数が大きいほど短くなる。
4. T2 緩和の原因は双極子-双極子相互作用による局所磁場揺動である。
5. 分子の運動周波数が共鳴周波数に最も近い場合に最短の T1 値になる。

第13回-1
緩和時間に関する正しい記述はどれか。(正解 2 つ)

1. 縦緩和時間 ≧ 横緩和時間である。
2. T1 緩和はスピン-格子緩和とも呼ばれる。
3. T2 緩和はスピン-格子緩和とも呼ばれる。
4. スピン-格子緩和時間とは、縦磁化が初期磁化の 36.8%になる時間である。
5. スピン-スピン緩和時間とは、縦磁化が初期磁化の36.8%になる時間である。

第14回-2
正しい記述はどれか。2 つ選べ。

  1. T1値≧T2値
  2. T2値>T2*値
  3. 脂肪のT1値 > 水のT1値
  4. 脂肪のT2値 > 水のT2値
  5. 大脳白質の ADC > 大脳灰白質の ADC

第15回-8
正しい記述はどれか。3つ選べ。

  1. 縦緩和時間 ≦ 横緩和時間
  2. 縦緩和速度 ≦ 横緩和速度
  3. J 結合はスピン-スピン結合とも呼ばれる。
  4. 縦緩和はスピン-スピン緩和とも呼ばれる。
  5. 横緩和はスピン-スピン緩和とも呼ばれる。

第17回-8
温度と MRI について正しいものを選べ。

1. 水の T2 値は温度の上昇に伴い延長する傾向にある。
2. 生体内のすべての組織は体温の上昇に伴い T1 値が延長する。
3. Chemical exchange saturation transfer(CEST)MRI に温度の影響はない。
4. Ice-water ファントム(0 °C)を用いると室温(25 °C)の水より ADC が高くなる。
5. MR spectroscopy による proton density fat fraction 測定では温度の影響はない。

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