靭帯が55°となると高信号になる、有名なアーチファクトの1つマジックアングルについてです。
過去問の出題はあまり多くはありませんが第17回でも出題されました。
マジックアングル現象
概要
主磁場に対してコラーゲン繊維束(腱や靭帯)が55°の角度となったときに信号強度が高くなる現象です。
特に整形領域である、肩の腱板、膝の靭帯や半月板で観察されます。
撮像シーケンスはTEの短い、T1強調画像、T2*強調画像、プロトン密度強調画像で出現します。
原理
マジックアングルは双極子-双極子相互作用(DDI)と関係があります。
DDIとはそれぞれの双極子同士、例えば水素原子核同士が互いに磁場を与え合うことです。これにより横緩和(T2緩和)が生じます。
(DDIについて過去の記事でちょっと取り上げました→【MRIの原理みたいなのその④】緩和のメカニズム)
水素原子核は磁気モーメントを有するために小さな磁石となり周囲に局所磁場Bを形成します。そしてこのBの大きさは以下で与えられます。
上記式から、3cos2θ-1が0となるときにBは0でありDDIは消失します。
DDIが消失するということはT2緩和が遅くなり、T2緩和時間が延長する(最長になる)こととなります。すると信号は減衰しにくくなります。
このDDIが消失するのは 3cos2θ-1 = 0 の時であり、角度はθ=55°(正確には54.75°)となります。
そのため、コラーゲン繊維が静磁場に対して55°の時に信号が減衰しにくく高信号となるのです。
マジックアングルによる文献では、0°付近で一番信号強度が最小となり、90°付近では0°55°の中間の信号強度となっています。
ちなみにコラーゲンはトリプルヘリックス構造という方向性を持っており、その表面に結合した水分子の水素原子核も一定方向に配列することとなります。
シーケンスについて
マジックアングル現象が見られるのはTEが短いシーケンスとなります。
「DDIが無くなりT2が延長するならT2強調画像で高信号にならないの?」と思われるかもしれませんが、もともと見ている腱や靭帯はT2値がとても短く1桁台でありDDIが消失したとしてもせいぜい10msくらいなのです。T2強調画像では80〜100msくらいのTEを使用するため高信号にはなりません。
T1強調画像のようなTEが10ms程度と短いシーケンスでは、本来低信号な靭帯や腱がDDI消失によりT2値が延長すれば高信号となる可能性が十分にあります。
またTRについてですが、TRを変更してもマジックアングル現象への影響はほとんど認められず、T2緩和のみに影響を与えT1緩和には影響を及ぼさないと考えられます。
過去問からの出題
第6回-4
関節の MRI について、正しい文章を選択して下さい。(正解1つ)
1.肘部管症候群は、ガングリオン等による正中神経の圧迫が原因で起こり、T2 強調像の横断面で観察しやすい。
2.肩関節の棘上筋腱は肩の腱板で最も断裂しやすく、外転外旋位の脂肪抑制 T2 強調像の斜冠状断面が観察しやすい。
3.膝の十字靱帯断裂は、前十字靱帯より後十字靱帯で生じやすく、T2 強調像の矢状断面で観察しやすい。
4.足関節におけるマジックアングル現象は、靱帯や腱に対する高信号領域の出現があり、T2* 強調像の矢状断面で問題となりやすい。
5.手関節のTFCC(triangular fibrocartilage complex)損傷は、手根骨と尺骨を支持している 靱帯や腱鞘の損傷のことで、T1 強調像の冠状断面で高信号域として観察できる。
第7回-25
次の記述について正しい文章を選択して下さい。(正解2つ)
1.膝関節の MRI 検査は前十字靱帯を評価する際に、膝をやや屈曲させ撮影する。
2.マジックアングルの影響を少なくするために、SE もしくは高速 SE 法の TE を最短に設定する。
3.前十字靱帯を評価する際は、SE 法もしくは高速 SE 法を用いた PD 強調画像が適している。
4.半月板を評価するT2*強調画像は設定できる最短のTEで撮影を行う。またFAは90度を用いる。
5.半月板を評価する際は、SE もしくは高速 SE 法を用いた T1 強調画像を撮影し、PD強調画像および GE 法を用いた T2*強調画像は適していない。
第11回-8
低信号として観測されるアーチファクトを選択して下さい。(正解 2 つ)
1.N/2 artifact
2.Lip like artifact
3.Cross talk artifact
4.Flow void artifact
5.Magic angle artifact
第17回-19
正しいものを選べ。
1. 磁化率アーチファクトを低減するため、受信バンド幅を狭くした。
2. マジックアングルアーチファクトを低減するため、TE を短縮した。
3. クロストークアーチファクトを低減するため、オーバーサンプリングを使用した。
4. ケミカルシフトアーチファクトは脂肪が周波数の低い方へシフトする現象である。
5. トランケーションアーチファクトを低減するため、位相エンコードマトリクス数を減らした。
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